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東京地方裁判所 昭和47年(ヨ)2393号 決定

東京都新宿区市ヶ谷河田町七番地

株式会社フジテレビジョン内

申請人 日本フィルハーモニー交響楽団労働組合

右代表者執行委員長 吉川利幸

右訴訟代理人弁護士 小島成一

同 高橋融

同 岡田啓資

同 松井繁明

同 今村征司

東京都新宿区市ヶ谷河田町七番地

被申請人 株式会社フジテレビジョン

右代表者代表取締役 鹿内信隆

右訴訟代理人弁護士 所沢道夫

同 三笠禎介

同 中村誠一

主文

一  本件申請をいずれも却下する。

二  訴訟費用は申請人の負担とする。

理由

第一当事者の求める裁判

一  申請人

(一)  被申請人は別紙物件目録記載のアーケード三階部分(これと同目録記載のフジテレビジョン建物のうちアーケード二階部分および四階部分を含めて、以下「本件建物」という。)、これに付属する本件建物三階部分と四階部分の洗面所、便所および給湯室ならびにこれらに至る廊下および階段部分の既存の設備に電気および都市ガスを通し、申請人およびその所属組合員にこれを利用させなければならない。

(二)  被申請人は本件建物三階部分につき適温の暖房および送風の各空気調整設備を作動させなければならない。

(三)  被申請人は、申請人およびその所属組合員に対し日本電信電話公社により配達される電報および郵政省牛込郵便局により配達される郵便物を「該当者なし」などの理由により返送するなどの方法で、申請人およびその所属組合員が電報および郵便物の配達を受けることを妨害してはならない。

二  被申請人

主文同旨

第二当裁判所の判断

一  疎明と審尋の全趣旨によれば、申請人は、これを雇用契約とみるべきかどうかはともかくとして、財団法人日本フィルハーモニー交響楽団(以下「日フィル」という。)との間に日フィルの行なう交響楽曲等の演奏活動等の事業に従事することを内容とする契約を締結していた楽員により昭和四六年五月一一日に結成されたものであること、被申請人は肩書地に本店を置き、放送法に基づくテレビジョンによる放送事業等を営む株式会社であって、本件建物を所有していること、被申請人は昭和四四年九月一日日フィルに対し本件建物を賃貸し、この賃貸借契約に基づいて、本件建物三階部分、これと本件建物四階部分に付属する洗面所、便所および給湯室ならびにこれらに至る廊下および階段部分等に存する諸設備に電気および都市ガスを供給し、本件建物三階部分等につき空気調整設備を作動させて暖房および送風等を行なってきたこと、また被申請人は、別紙物件目録記載のフジテレビジョン建物の賃借人から郵便物の処理を委託された場合には、郵便局の指示により郵便局に赴いて賃借人宛の郵便物をも被申請人宛のものとともに一括して受領のうえ、これを賃借人に取り次いでおり、日フィル宛のものもその委託によりこれと同様に取り扱い、日フィル宛の電報が配達されてきた場合にもこれを受領して日フィルに取り次いでいたが、申請人およびその所属組合員を含む日フィル所属の楽員宛の郵便物や電報については日フィル宛のものと同様に取り扱っていたこと、日フィルは昭和四七年六月三〇日限り解散することにし、同日文部大臣の許可を得て解散および清算の手続に入るとともに、その所属楽員全員に対し同日限り各楽員との契約を解除する旨の意思表示をし、被申請人と本件建物に関する賃貸借契約を同日限り解約する旨の合意をしたこと、これに対して申請人およびその所属組合員は、この日フィルの解散ならびにその所属楽員との間の契約の解除は無効であると主張し、争議権の行使であるとして同年七月一日以降本件建物三階部分を占有していること、被申請人は同月二日以降本件建物三階部分等につき空気調整設備の作動を停止し、暖房および送風等を行なわず、同年八月一五日からは本件建物三階部分、これと本件建物四階部分に付属する洗面所、便所および給湯室ならびにこれらに至る廊下および階段部分等に存する諸設備への電気の供給を、さらに同年九月一五日からは都市ガスの供給をそれぞれ停止し、また同年八月以降郵便局から受領した郵便物のうちに申請人宛のものが含まれているときは、名宛人に該当する者がいないとの理由で、これを郵便局へ返送し、電報局から申請人宛の電報が配達されてきた場合も同様の理由でその受領を拒否していることが認められる。

二  申請人は、本件建物三階部分についての占有権を被保全権利として、電気および都市ガスの供給とその利用の許容ならびに空気調整設備の作動による暖房および送風の実施を求めている。

しかし、被申請人は日フィルとの間における本件建物についての賃貸借契約に基づいて前認定のとおり電気および都市ガスを供給し、空気調整設備を作動させて暖房および送風等を行なってきたのであるから、これらを求める権利は占有権の内容をなすものではない。したがって申請人が本件建物三階部分についての占有権を有するからといって、これを根拠に電気および都市ガスの供給とその利用の許容ならびに空気調整設備の作動による暖房および送風の実施を求めることはできない。申請人がこれらを求める権利を有することについては他に主張、疎明はない。

三  申請人は、申請人およびその所属組合員の通信を受ける権利を被保全権利として、申請人およびその所属組合員が電報および郵便物の配達を受けることの妨害禁止を求めている。

しかし、申請人はその所属組合員が電報および郵便物の配達を受けることの妨害禁止を求める適格を有しない。

また申請人が電報および郵便物の配達を受けることの妨害禁止についてみると、被申請人は昭和四七年八月以降、電報局から申請人宛の電報が配達されてきた場合には、名宛人に該当する者がいないとの理由でその受領を拒否し、郵便局から受領した郵便物のうちに申請人宛のものが含まれているときも、同様の理由でこれを郵便局に返送しているが、これが申請人の通信を受ける権利の妨害であるといい得るためには、被申請人に申請人宛の電報や郵便物を受領してこれを保管するとかあるいはこれを申請人に取り次ぐべき義務がある場合でなければならない。しかし、申請人が通信を受ける権利を有することのみをもって、被申請人にこの義務があると認めることはできないし、申請人が本件建物三階部分についての占有権を有するとしても同断である。被申請人にこの義務があることについては他に主張、疎明がないし、被申請人がこれ以外に申請人が電報や郵便物の配達を受けることを妨害していることについても他に主張、疎明がない。

四  以上のとおり、本件申請のうち申請人所属組合員が電報および郵便物の配達を受けることの妨害禁止を求める部分は、申請人にはこれを求める適格がなく、その余の部分は、被保全権利の疎明を欠くし、保証をもってこれに代えるのは相当でないので、失当としていずれも却下する。訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宮崎啓一 裁判官 安達敬 裁判官 飯塚勝)

〈以下省略〉

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